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是枝裕和監督「万引き家族」感想・一体何を描きたかったのか?

どうもこんにちは、NITARIです。

大変今さらですが、やっと「万引き家族」を観てきましたので、感想です。

是枝裕和監督映画「万引き家族」のあらすじ

「万引き家族」は2018年のカンヌ映画祭最高賞であるパルム・ドールを受賞した作品です。

出演者

  • 柴田治:リリー・フランキー
  • 柴田信代:安藤サクラ
  • 柴田亜紀:松岡茉優
  • 柴田祥太:城桧吏
  • ゆり(りん、北条じゅり):佐々木みゆ
  • 柴田初枝:樹木希林

祖母・初枝の年金を目当てに、家に住み着く「家族」
母はクリーニング店のパートとして働き、日雇い労働者の父と息子の祥太は、給料と加えて万引きを繰り返して生計を立てている。

ある日、父と祥太が万引きをした帰りに、団地の外で小さくなっていて幼い女の子を見つけて、二人は彼女を連れて帰る。

一度は帰そうとするも、彼女の家では両親と思しき2人が怒号を浴びせあっており、その環境に子供を帰すのは忍びないと、一緒に暮らすことにした。

彼女は「ゆり」と名付けられる。

やがて、ゆりにも万引きを手伝わせるようになり、家族は皆で仲良く暮らしていたのだが・・・

映画「万引き家族」のネタバレ感想

昔から是枝監督の作品はチェックしており(全部じゃないけど)、かなり気になる存在ではありました、が、近年の作品はあざとさばかりが目立ち、あまり好きではありませんでした。

「海街diary」などのアイドル映画に加えて、「そして父になる」「三度目の殺人」など、エンタメ志向のわかりやすいヒット作が多く作られていて、正直言って若干辟易としていました。

今回、まさかのパルム・ドールを受賞したとのことで、本来なら早く見たほうがいいかなと思ったんですが、タイミングを逃したまま酷暑になってしまったのでそのままでした。

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「万引き家族」と「誰も知らない」の比較

この映画を観ていてまず感じたのは、とにかく2004年の「誰も知らない」に似ている、という事でした。

「誰も知らない」は、アパートで母親に置き去りにされた兄弟たちが何とか自分たちで生きてゆくという、かなりざっくりした説明だとそんな話でした。

この映画は、主人公を演じた柳楽優弥が当時小学生だったのに、カンヌ映画祭で最優秀主演男優賞を受賞して話題になりましたよね。

(全く関係のない事ですが、近年の柳楽の飛躍っぷりは目を見張るものがあります。大好きです)

「誰も知らない」とかなり似ている点としては、「世の中から置き去りにされた家族」の物語だというところです。

柴田家が犯している犯罪というのが、いずれも大きな犯罪ではなく軽犯罪ですよね。

それは、タイトルにもある「万引き」という点だけではなく、色々な所で生きるために悪い事をしているわけです。

「バレなきゃいい」ではないけど、バレなかったら別に誰にも迷惑にならないような軽犯罪なので、ついつい女の子までも誘拐してしまうんです。

これは「誰も知らない」でも同じような感じです。
子供たちを置き去りにする母親は、映画の登場シーンではとても子供たちを愛している、包容力のある母親なんですよ。

後々彼女は家族を置き去りにしますが、多分子供たちの事を置き去りにしてしまっているのではなくて、彼女としては「そのうち何とかしよう」と思って置き去りにしてしまったという状況なんです。

「誰も知らない」も、「万引き家族」も、登場人物たちが誰もが前向きで、とても楽しく暮らしているというところがポイントです。

どちらの映画でも言えるのですが、登場人物たちは「悪」として描かれていません。
もちろんやっていることは犯罪ですが、この映画にとって「悪」とされるのはどちらかといえば社会でしょうか。

その件に関しては後述します。

「万引き家族」の2つのテーマの解説

この映画に込められたメッセージとして明らかなのは、徹底した社会批判です。

彼らのおかれてしまった現状と、そうしなければ生きられない、そして、そうしていれば生きていけるという現代社会。

この映画にはあらゆるテーマがてんこ盛りに込められています。
ここでは特に重要な2点について語りたいと思います。

テーマ①「貧困」について

日本でも近年、貧困は大きな社会問題として取り上げられています。この家族も、パートで働いている母や日雇い労働者の父、祖母の年金と、「お金」に関する厳しさが描かれています。

実際、彼らはみんな働いているのにお金が足りなくて生活に苦しんでいます

しかし実際は、彼らが税金や年金や国保を払っているようにも思えませんよね。
万引きなどで物資を調達しているので、実際は海に行ったり、喫茶店でお餅を食べたりすることもたまには許されるというところです。

これをしない家族はたぶん日本にはいっぱいいて、かなりお金が足りなくて苦しい生活をしてるんだろうなと思います。

テーマ②「家族」について

誘拐されたとなってしまったゆりちゃんの実の両親と同じように、DVや、崩壊した家庭のあり方が描かれています。

結局、ここに描かれた柴田家というのは誰も血縁関係にない者同士の集まりですけど、こんなに幸せな家庭ってあるのかな、というくらい幸せに描かれていますよね。

ここに「家族の多様性」が描かれています。

この映画の中で頻繁に言われていたことですが、祥太が父の事を「お父さんと呼んで」といわれたり、警察署での事情聴取で母が「あなたはなんと呼ばれていたのか?」と聞かれて涙したり。

この両親は自分たちでは子供は生まなかったけど、他人の子供を本当に自分の子供だと思って大切にしていたのだという事が分かりますよね。

血のつながりとかではなくて、心と心の絆が大切であるという事は、是枝は「そして父になる」でも重々語っていましたよね。

祥太はなぜ、敢えて捕まったのか?

ここで内容の話に戻りたいと思います。
なんで、長男の祥太は敢えて万引きで怪我をして捕まったのか?

この映画を読み解く上で非常に重要な事件が、実は柄本明演じる駄菓子屋の店主に「妹にはそんなことさせるなよ」といわれた事件です。

今までは父親と祥太が二人でやってきて、おそらく万引きを繰り返していたのでしょう。
しかし実は店主はその事を知っていたんです。しかし、今まではそれを見て見ぬふりをしていた。

しかし今回、もっと小さな妹を連れてきて万引きをさせたことで、見かねた店主がお菓子を上げて注意したんですね。

これは実はとても重要な出来事です。
バレていないと思っていた万引きを黙っていたのは、店主のやさしさであり、「哀れみ」だからです。同情されてしまったからです。

その事件があってから、祥太は父の言っていることに疑問を覚えるようになります。
「お店のものは誰のものでもないから持って行っていいよ」といわれていたのに、「誰かのもの」である車からバッグを盗んだりすることから、「自分を助けてくれた時も、本当は盗んでいたのではないか」と聞きますよね。

もしかしたら、自分は万引きの片棒を担がされるために利用されているのではないか?
映画ではそこまでは描いていませんでしたが、とにかく祥太は迷ってしまった。
そこで、「一度万引きで捕まってみよう」と思ったのです。

実際、祥太には万引きで捕まったらどうなるかまでは全く分からなかったと思います。
しかし、自分が哀れみの対象である事や、「してはいけない万引きを妹にさせた」と叱られたことから、信じていたはずの家族の形が少しずつ崩れてしまったんですよね。

「万引き家族」で最も重要なセリフ

この映画で最も重要なセリフは、おそらく事情聴取を受ける母親が死体遺棄について「あなたは死体を捨てたんですよ?」といわれたことに対し、「私は捨ててはいない、拾ったんだ」というセリフです。

もちろんここで警察官の言っている質問の答えではありませんが、母が言っている「私は拾ったんだ」というのはあまりにも重い。

これは、自分も含めた、「社会から捨てられた人々」の事に他なりませんが、彼女が拾ったものっていうのは実はもっとすごくたくさんあるのだと思います。

例えば、劇中で墨田川の花火の音を聞く印象的なシーンがありますが、それも非常に象徴的ですよね。
花火大会から捨てられた「音」だけを拾い上げて楽しんでいる、というような事です。

彼女が「自分は拾っている」というのは、それはもう本当にゴミや飯から始まって家族や愛だったり絆を拾って紡いできたのだという事はよくわかります。

「万引き家族」のラストの解説

しかし、最後には彼女は「現実社会」に子供を帰すことにします。

最後にベランダで外を眺めるゆりちゃんが印象的でした。
結局帰っても両親に見向きもされずに「捨てられた」ような状態で、ベランダ(というかアパートの廊下)で独りで遊んでいます。

自分より背の高い手すりから外を見ようと、台に乗って背を伸ばして外を眺めるというところで映画は終わりますが、小さな子供が「隔てられた壁から何とか外をのぞく」というのが、そのままこの映画のテーマになっているのだと思います。

映画「万引き家族」の問題点

さて、ここまでは「万引き家族」を解説してきましたが、正直言って私は何もこの映画がめちゃくちゃ好きとか言うわけではありませんでした(笑)

今まで感じていたような是枝作品の鬱陶しさやあざとさは多少は軽減されていると思うし、大量のテーマをうまくまとめた感はすごい。

映画の質としてはよくできていたのかな、と思います。

がしかしバッサリと切り捨ててしまうんだったら、「誰も知らない」だけでよくね?(笑)といったところ。

大体テーマが同じだという事は前述しましたが、私は「誰も知らない」のほうが全然好きだったんですよね。

もちろん、テーマが全部同じというわけではなくむしろもっと「万引き家族」のほうがいろいろなことが盛り込まれてはいるんですが、てんこ盛りになった結果、テーマに対する回答も多くなってしまって、なんか語りすぎ感がすごかった。

「万引き家族」はとってもシンプルな話ですが、あまりにもテーマが多すぎるんですよ。伝えたいことが多すぎる。

ただ、凄い精度でそれらのテーマに対する回答をガンガン拾ってゆくのはすごいと思うんですよ?
しかし、あまりにもいろいろと問題提起したがった結果、まったく余白のない作品になってしまった感はありますよね。

是枝監督のテーマに対する強制的なマインドコントロールは、昔から疲れるけど今も疲れる。

そこが、「誰も知らない」では語りすぎていなかったからよかったんですけど、今回はやっぱりやりすぎてた。

「万引き家族」で描かれる社会批判

この映画で、是枝監督は観るものを試しているなあと思います。

この映画をみた感想で「これって、でも、自業自得だよね?」と考えてはいけない、と是枝監督は言っているわけです。

今っていうのは、なんでもかんでも「自業自得」だし、「他人に迷惑をかけてはいけない」という社会ですよね。

例えばイラクやシリアでジャーナリストが拘束されたら「自業自得だから見殺しにしちゃっていいよ」とかなるし、子供が泣いたら「他人に迷惑をかけんなよな」っていうでしょう。

しかし日本の、「自業自得」に対する世間の冷たさってすさまじいと思うんですよ。

例えば今、社会問題になっているのが奨学金を返せなくなっている若者が増えている件。

日本の「奨学金」は結局「借金」なのに、その認識ができる社会ではないんですよね。借りた時分は若かったし、「奨学金」という言い方に後ろ暗い所がないから。
だから卒業して就職したところでかなり返済に苦労することになってるんですよ。

それが比較的大きな問題になっているにも関わらず、多くの人が「自業自得だよね」と切り捨ててしまう。

世の中で苦しんでいる人が、あらゆるところで「自業自得」だといったら、とっくに経済は破綻していると私は思う。

是枝監督はそういう、「社会についていけない人」とか、「やむにやまれぬ事情」を持った人間は、もしかしたら自分がそうなるかもしれないし、もしかしたら自分の子供がそうなっちゃうかもしれないよ、といいたいのだと、私は思います。

「万引き家族」の感想が辛いものになってしまった理由。

だから、この映画が言っていること自体はすごく共感できるんですよ。

この映画をみて、「うーん、しかしこれは自業自得では?」と切り離すだけの感想を持つ人は、本当に嫌だなあ、と私は思います。

一方で、だからこそ私はかなり観ていてつらかったし、逆に是枝がそれを伝えたい!っていう感じが神経にかなり来てしまって、家族に事情聴取する警察の口調とか、他人事に思えなくてかなりしんどかったです。

「あああ~~~いるよなー、こういう警察いるよ…辛い。ただただしんどい」って感じ(笑)。

この映画っていうのは、そういう「社会」を描いた作品だとは思うんですよ。
「社会」を描くことってやっぱりかなり重要だから。

しかしながら、是枝監督は「社会」を描こうとするあまりに、「人間」を描くのを若干後手にしているところはありませんかね、といいたい。

そもそも、この家族がとにかく幸せそうに描かれているというのも不満です。

是枝は「そして父になる」でも、取り違えた子供を育てている家族で、「金持ちだけど幸せな家庭を築けていない家族」と、「お金はないけど幸せな家族」という、あまりにもわかりやすい対象を描いていました。

その時点でどうかと思うんですけど、やっぱりこの映画でもその感はぬぐえませんでした。

複雑な人間を描いているようで、非常にわかりやすいキャラクターを取り上げてテーマを盛り込んでややこしくする、というのが是枝の鬱陶しい所なのではないかと思いました。

おまけ

この映画は炎上しましたね。

まず、バカなネトウヨが「日本人が万引きで暮らしていると思われてしまう」とか言って炎上していましたよね。

ああ、なんでこんなにバカなんだろう。辛い。ただただ辛い。

私は最近、こういう馬鹿な人の意見を目にするのも辛すぎて、目を閉じています。首相がやったりしてますからね……
是枝監督のように、ずっと批判し続けられる人ってすごい。本当にすごいと思います。

だからこの映画がしんどかったっていうのはあるかもしれませんね。

まとめ

まあいろいろ書きましたが、最近の是枝の作品としては悪くはなかったとはいえ、相変わらずなんというかあざとい所が鼻についてしまいました。

しかしながらパルム・ドールは納得
良い程度の分かりにくさだったり、社会批判だったり、日本の現実っぽい感じだったり、海外の人に評価されやすそうだなあ~という感じでした。

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