外国映画

【アメリカン・スナイパー】は批判すべきか賞賛すべきか?

クリント・イーストウッドの「アメリカン・スナイパー」を見た。
「賛否両論」といわれて有名な作品だけども、結局NITARIはどうかんじたのか?

【アメリカン・スナイパー】を語るべきいくつかの項目

賛否両論のこの作品ですが、その詳細に関してはWikipediaが非常に詳しかった。

要するにこの映画を批判している人は、この映画が非常に愛国主義的で戦争賛美ではないのか?と言いたいようだ。

映画監督のマイケル・ムーアは、そもそもスナイパーという存在自体を否定する発言をして、物議をかもした。

この映画の場合、とにかく「これが言いたいのだ!」というメッセージ的なものが非常にあいまいなのにモチーフというかテーマがかなり多いので、観る人の興味や「こう見たい」という見方が非常に映画の解釈を左右するという、ちょっと危うい作品のようにも確かに感じる。

保守団体からこの映画が賞賛された、というのも分からないではない。
このクリスという人物は家庭を顧みずただ愛国心のために戦ったヒーローだと見たい人には、そのように見えてしまっても仕方ないというのはよくわかる。

そしてリベラル派らがこの映画を批判しているのも非常に分かることでもある。

そもそもこの映画は反戦映画なのか?

リベラル派らは基本的に戦争映画をみるときに、「この映画は正しく反戦を描けているのか?」という事に重きを置く。

それは当たり前なのだが、戦争映画というのは「戦争がダメですよ」というメッセージだけを掲げればいいというものではないのだと私は思う。

というか、普段から別にそんなことを思っていたわけではないのだけど、この映画をみて私はそのように感じた。

「この映画は反戦映画か?」という事を重点的に見た場合、ふつう戦争映画に対してやや批判的な位置からたぶん厳しめに観るので、そういう見方をした場合、この映画はちょっと弱い立場にあるというのは間違いないのかもしれない。

私自身は、この映画は「戦争はダメだよね」という明確なメッセージのある映画には思えなかった。

それは別に戦争を賛美した映画だというのではなくて、テーマがどちらかといえばもっと精神的というか、哲学的なもののような気がしたのだ。

もっといえば私はこの映画は非常に宗教的なもののように思う。

本当のテーマは、宗教である

そもそもクリスが少年時代から、敬虔なキリスト教信者である父に厳しくしつけられたところから彼の愛国心、仲間を思いやる気持ちは植え付けられている。

その「信念」を念頭にこの映画をみていくと、実はこの映画がそもそも「すべての戦争の起源」である「宗教」を大きなテーマにしていることがよくわかる。

善と悪、という考え方が非常に強いキリスト教徒であるクリスが、例えば仲間を失ったときに復讐に燃えるのは完全に強い信仰心として描かれているというわけだ。

この映画の素晴らしいところはあまり説明をしないところで、淡々と描かれてゆくけど後半に行くにつれて帰国したクリスが苦しむようになる。

最も苦しみを露わにしたシーンは、仲間の仇を取った後のバーでの彼の様子だ。
ここでは彼は理由も分からず、とにかく大きな虚無感を持っている様子が描かれている。

私はこれは、「目には目を」という信仰をもって復讐を成し遂げた後に、しかし何も残らなかったという虚無感なのではないかと思う

そのあと、彼がついに精神科に行って医者に話すシーンが最も印象的で、彼は「僕には何も後悔はない。僕は蛮人から仲間を救っただけのことだ」と語るのだが、その眼は完全に死んでいる。

これらのシーンに関しては、彼の信仰心という面を忘れて、もしくは重きを置かずに見た場合には、ただ単に戦争後遺症であるPTSDに悩んでいる、非常に愛国心の強い仲間思いの男のように見えるかもしれない。

しかしイーストウッドはそのようには描いていない。
愛国心に対する絶望を(あからさまではないが)描くことで、「戦争は人を壊滅せしめる」というメッセージを描いているし、決して賛美していないことは容易に分かるわけだ。

どちらかといえば、信仰心や愛国心に対するアンチテーゼ(とまではいかなくても、疑問)がこの作品の本当のテーマだと私は感じた。

最後のシーンで彼の実際の葬儀の様子が流れて、まあ確かに星条旗を掲げまくってまるでヒーローみたいになっているけど、エンディングテーマが流れない、という演出からも、単なる戦争賛美には到底思えないわけだ。

そもそも戦争の良しあしを語ったところで、戦争は無くならない。

その前提を踏まえたうえで、どうして戦争が起こるのか?に眼を向けたのが本作で、どちらかといえば批判されるべき点としては、敬虔なクリスチャンがアンチ=キリスト的なメッセージを孕んだ本作の危うさを指摘するのであれば、まだ話は分かる。

したがって、そもそもスナイパーを批判したマイケル・ムーアの着眼点は見当違いと言うより外ならないだろう。

役者と演出の圧倒的なすばらしさ

私はこの映画の主人公を演じたブラッドリー・クーパーという役者は全然知らなかったのだけど、とにかくよかった。とにかく圧倒的によかった。

この人のこの演技がなかったら、ただのお気楽なヒーローものとなってしまってたかもしれないけど、そうはならなかった。

最初は軽薄な男でバカ丸出しで下品とか思ってたけどごめんなさい。
狙撃兵として頭角を現してゆくにつれて、もうとにかくかっこいい。かっこいいっす!!!クリス!!!とか思ってしまった。

あまりにも素敵なので、時々巻き戻してみてしまったくらい。

こういう事を言うのは何だけど、兵士の無駄のない動きって本当にかっこよくていつまでも観れそう。 (戦争映画大好きなんです……)

奥さんとのエピソードはすごく普通な感じで、あんまりおもしろくはなかった。
語り口はスピルバーグの「ミュンヘン」にも似てるけど、夫婦の描き方はあっちのほうがまだいいかな。

あと、敵役のスナイパーも非常にかっこいい。

全体の私的な感想

それにしても、ここからは私的な感想になりますが(じゃあ今までは何の感想だったのだよとか言われそうだけど)、とにかく胸が痛いですね。

なんというか、この映画がどうだとかではなくて、とにかくこういう出来事が今でもまだ続いていることが本当に心が苦しくなる。

子供たちが殺されてゆく場面は本当に、ただただ辛い。

なんというか、そういうただただ辛い現状をちゃんと描き切れただけでも素晴らしいと思うんだけど、その原因である思想に着目して描くというインテリジェンスに脱帽しました。

なんかハリウッド映画って、ポリティカルコレクトネスをすごく他国に上から目線で押し付けてくる感じがむかつくけど、この映画はそもそもそういう映画でもないのだと思って、私は素晴らしいと感じました。

まとめ

 

議論はいろいろとあるけど、そういう議論を生んだだけでも素晴らしい成果のある映画なのではないかなと思います。

必見ですね。

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