外国映画

【シェイプ・オブ・ウォーター】ネタバレ感想。この映画に隠された本当の意味を解説。

ギレルモ・デル・トロ監督の「シェイプ・オブ・ウォーター」を見てきました。

アカデミー賞に13部門ノミネートされ、「最有力候補」といわれている本作でしたが、どんな作品だったのでしょうか?

「シェイプ・オブ・ウォーター」のネタバレあらすじ

時代は冷戦真っただ中の1962年アメリカ。 主人公のイライザは、小さなころに負った傷のせいで話すことができない(耳は聞こえる)。

普段は、政府の極秘機関の掃除婦として働いている。 イライザはささやかな暮らしを友人たちと楽しんでいる。

隣人のジャイルズはゲイで、あるダイナーの主人に恋をしている。 掃除仲間の黒人女性ゼルダはおしゃべりだがとても陽気でやさしい。

ある日、極秘機関にある謎の生物が運び込まれる。 たまたまイライザはその生物を見てしまい、深く惹かれてしまう。

友人のゼルダにも黙ってこっそりとゆで卵を持ってゆくイライザ。

言葉の話せない、見た目は半魚人に似た謎の生物だが、イライザは彼に知性がある事を知る。 それから音楽を聞かせたりしながら、だんだん二人は心の距離を縮めてゆく。

しかし、そもそもその生物は対ソ連のために解剖される運命にあったのだ。それを知ったイライザは、彼を助けようと考える。

一方、極秘機関に働くホフステトラー博士だが、実はソ連のスパイで、彼もソ連からその生物を処分するように圧力を受けていたのだが、博士としてその生物の美しさに魅せられてしまい、彼を助けたいと考える。

イライザは隣人のジャイルズに、彼を助けたいから協力するように言うが、ジャイルズは取り合おうとしない。ジャイルズはジャイルズで、失業し再起をかけた大事な時期だったのだ。

イライザの必死の説得にも応じず、ジャイルズは自分のために仕事のプレゼンに行くが、失敗。そのあと、好きなダイナーの主人の元へ行き、気持ちを打ち明けるが手ひどく拒絶されてしまった。

一度は友情にヒビを入れる覚悟でイライザの頼みを断ったジャイルズだが考え直し、イライザと共に謎の生物を助ける決断をする。

決行日当日、イライザが生物を洗濯ものの中に隠して逃がそうとするが、スパイのホフステトラー博士も実は時同じくして生物の奪取に乗り出していた。

同じ目的を持った二人は協力しあう事となり、偶然居合わせてしまった友人のゼルダと共に生物の奪還に成功する。

イライザは彼を自分の部屋の浴槽に住まわせ、10日後に雨が降って貯水槽に水がたまったら放出にまぎれて彼を逃そうとするのだった……

シェイプ・オブ・ウォーターが伝えたかった本当のメッセージ

この映画は単なる、怪物と人間の愛の物語ではなく、実はポリティカルコレクトネスが重要なテーマになっている。

※ポリティカルコレクトネスとは
政治的・社会的に公正・公平・中立的で、なおかつ差別・偏見が含まれていない言葉や用語のこと

この映画における謎の生き物とは何なのか?という事を考えてみると、実はこの生物というのは我々と何にも変わらないことが分かる。

例えば、この映画で重要なキャラクターである、イライザは口がきけず、ゼルダは黒人として虐げられており、ゲイであるジャイルズにも市民権はなかった。

そんな「遺物」である彼らと、実は謎の生物というのは特に何も違わないのである。

最初から、イライザやジャイルズやゼルダは彼の事を受け入れており、途中で暴走して猫を食い殺して逃げた時にすら、「これは彼の本能だから仕方がない」と、けがを負わされたジャイルズは言う。

社会的に虐げられてきた彼らにとって、謎の生物は遺物でもなんでもないのだ。

この映画で最も重要なシーンは、解剖される運命にある生物を助けたいと、イライザがジャイルズに協力を仰ぐシーンである。

「私は何? 私は喋ることができない。彼も言葉を喋ることができない。私たちには何の違いもない」

このシーンはとても重要で、これは何もイライザと生物だけの問題ではない。

世の中のどんな人でも、虐げられている人々と虐げている人全員に投げかけるメッセージである。

「私は何? 彼と何が違うの?」

この映画の伝えたい、最も重要な点というのはそういう事なのだ。

シェイプ・オブ・ウォーターの感想

さて、今までは私の考察で、ここからは感想を書こうと思う。

上記のようにポリティカル・コレクトネスを巧みに描いた作品であるということは間違いないのだが、正直に言って私はこの映画が全然面白くなかった。

私自身は、当然だがポリティカル・コレクトネスを非常に重要視しているし、多様性を受け入れることは非常に重要なことだと信じて疑わない。

だから、この映画の伝えたいメッセージは十分に理解できる。

しかし、正直言って、単純にこの映画は全然面白くないのである。

何が面白くないといって、ストーリーが全然ふつう。

ギレルモ・デル・トロ監督といえば、「パンズ・ラビリンス」という映画が非常に有名で、この映画は独特の世界観と謎のストーリーで魅了された。

この「シェイプ・オブ・ウォーター」も一見すると似通った世界観に思えるのだが、どうもこちらのほうはヘタに洗練されてしまった退屈になった印象だ。

特に問題なのは、構成の工夫のなさである。

「パンズ・ラビリンス」は実はかなり構成が優れていて、二重構造の作品だったのでどこへどう話が向かうのかわからず非常に緊張感があった。

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しかし、今回の「シェイプ・オブ・ウォーター」は最初から最後まで何一つ意外な展開が認められなかった。何が起こるか大体わかるので、緊張感が全然なかったのだ。

演出にも独創性を感じられず、何も驚くべき部分がなかった。

しいて言うなら、悪役のストリックランドのちぎれて縫い直された指がだんだん腐ってゆく描写なんかは意味不明で独創的に思えた。

シェイプ・オブ・ウォーターが描く「善悪」の違和感

ストリックランドの話が出たのでもう少し掘り下げてみようと思う。

この映画をつまらなくしている大きな理由の一つが、私はこのストリックランドの存在にあると思う。

この人、本当に悪い人だった。単に悪役だった。それが私には残念だ。

この映画では、登場人物が皆おおむね「善か悪か」に振り分けられる。
もちろんイライザたちは前者で、ストリックランドは後者だ。

要するにこの映画は勧善懲悪の話なのである。

「パンズ・ラビリンス」をご覧の方は「パンズ・ラビリンス」の将軍だってそうじゃん!っていわれるかもしれないけど、パンズの場合はかなり巧みに、将軍の人間性も描いていたので、非常に人間的で単なる悪役ではなかったことが大きな魅力の一つだったのだ。

しかし、今回はストリックランド。単なるあれは悪い奴だ。
早く死んだらいいのにって思ってたら、最後に死んでよかったねって話になった。

この映画には宗教的な側面もあり、謎の生物は人の傷やハゲを直したりする奇跡を起こすことができる。すなわち彼は神だ。

しかも人の形に近い。きわめてキリスト教っぽい神なのである。

そして「善の象徴」であるわけだが、そういう存在を非常に人間に似せて、人間の感覚から外れないところで作りこんでしまったら、なんというかとにかく傲慢だし、私はそういうの好きじゃない。

神はもう少し観念的に描くべきだと思う。

今回の場合は完全に中途半端で安っぽいのである。

たまにアニメとかで、動物が人間の形でしゃべったりするのがあって、そういうのも傲慢であんまり好きじゃないけど、そういう感じにすごく似ていると思った。

「多様性を受け入れる」をツールにしてはいけない

もう言ってしまおう。ハリウッドはポリコレが大好きだ。

ポリコレが大好きなのか、ポリコレっぽいものが大好きなのか知らないけど、とにかく「多様性を受け入れる」っぽいメッセージにめっぽう弱いといってもいいだろう。

だからこういった、ポリコレをうまく表現した作品なんかめちゃくちゃ評価されるし、この映画もたぶんアカデミー賞を取るだろう。意識高い系だからだ。

しかし、映画はポリコレを正すためのツールではないのだ。その観点が最近のハリウッドには欠けている。

「ズートピア」や「ドリーム」を見た時にも同じように思ったのだが、「多様性を受け入れる」というのはあくまでもテーマであって、それをツールにしてしまうと説教臭くなるのだ。

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別にダメだというわけではないのだけど、なんか上から目線な感じがして私は好きじゃない。

「多様性を受け入れる」というテーマの先に、人間の本質を描くという事までしてほしい。

そうじゃないと、「ポリティカル性をコレクトに表現する俺」感が出てきてしまってウザいだけだ。

あと、こういう風に表面的にポリコレを描いてしまうと、「この映画に投票しておけばコレクト(正解)」感も出てしまってマズいとおもう。

映画というのは「ポリコレ感を装うツール」ではなく、人間の本質を描いてこそのものだ。

もちろん、「ラ・ラ・ランド」のように、それ以前にポリコレもクソもない単なる駄作だって存在するので、そういう映画よりははるかにいいのだと思うけど、まあもう少し、もう一息頑張ってほしかったなというのが正直なところだ。

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おススメのポリコレ映画

最後になるが、それでは、人種問題やポリコレを扱った作品で傑作と思うものをいくつか紹介したい。

まずは、昨年のアカデミー賞作品賞を受賞した「ムーンライト」。
この作品は本当にいい映画なので、ぜひ見てほしい。

ここでは人種問題や同性愛の差別など重いテーマを扱いながら、描くものは透き通って今にも割れそうなガラスのような美しい愛である。

静かな作品だが強いメッセージと芸術性を兼ねそろえ、重いテーマのその向こうに人間の本質を描き切った傑作だと思う。

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それから、2013年のアカデミー賞作品賞を受賞した「それでも夜は明ける」。

人種問題に真っ向から挑んだ作品で、ともすればお涙頂戴作品になりそうなテーマだが、監督の斬新な表現により全く違ったものになっている。

この映画の芸術性の高さには舌を巻いた。

やはりこの映画も、人種問題を扱いながら、人間の心の底に問いかけてくるような深いテーマが存在していたように思う。

以上の2作品は必ず見てほしい作品である。

それから、「シェイプ・オブ・ウォーター」を見るんだったらぜひ「パンズ・ラビリンス」も観よう。 この映画のほうがはるかにいいと私は思う。