アカデミー賞作品賞にノミネートされた本作ですが、別にあんまりみどころはなかったです。

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サルーが死ぬほどかわいらしくて気を失いそうだった。

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【LION/ライオン~25年目のただいま~】ネタバレ感想

「Google Earth」はテーマではないのだ

さて、「ライオン」という作品ですけど、この映画は実話が元になっている作品です。

この作品は設定からして、グーグルアースを使って故郷を探し当てた実話が元になっているっていう作品なんですよね。

それがこの作品の「柱」になっていることは間違いがありません。
この作品の一番の問題は、そこでした。

つまり、この作品は「テーマ」より先に「グーグルアースを使って故郷を探し当てる」という「ストーリー」が出てきてしまうんです。

よく混同する人が多いんですけど、それはあくまでも設定というか「ストーリー」であって、「テーマ」ではないんですよ。

で、じゃあこの作品のテーマはなんだろう?って考えたときに、まあ分かりやすいのは「親子の絆」とか?ただ、兄と生き別れてしまったことに対する「兄への愛」でもあり、育ててくれた「ママとの絆」でもあるんです。

しかし、そのどれもがこの作品の最も重大な柱になってはいないのです。
制作者側はあくまでも、この突出した「事実」を観客に伝えようとしました。その結果、何が言いたいのか分からない作品になってしまいました。

テーマの多い作品が悪いわけではありません。

テーマとストーリーをはき違えているということです。
この映画の作りだったら、当然なんですけどこの映画よりも実際に起こった事件を書いた原作の方が面白いに違いありません。

よくこういう話をすると、「でもこれが実話なんだから」という人がいますが、それは間違いです。

確かにこの作品は実話をもとにしてますけど、描きようによっては全く違く作品になるはずです。

コップに半分入った水の事を誰かに伝えるときに、「半分しか入ってないよ」と言われると少ない気がするし、「半分も入ってるよ」と言われたら多い気がするように、伝え方が全部なんですよ。

 

ただ事実を描こうとしてるのに、中途半端に泣きを狙う

インドからオーストリアに養子としてもらわれるまでを描いた第1部はまだましです。ここではインドでの様子がかなり克明に、しかし淡々と描かれています。

ただ、ここでもテーマに成り得るインドの貧困問題などが素通りされてしまっています。宝の持ち腐れですね。製作者はそんな事よりも後半の再会のシーンをドラマチックに描くことしか考えていません。

そして大人になってからも、描くべきテーマを素通りして、彼女や母との平凡なやり取りに終始します。我々はこの先何が起こるか分かっているから、それだったらこの作品を通して描くべきテーマがいくらでもあるのに、全ては後付け。

なぜなら、この作品はグーグルアースで故郷を探すことこそが一番重要だからです。
とにかく問題意識が低すぎるんですね。

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LION ライオン 25年目のただいま : 作品情報 – 映画.com

では、どんなテーマで描けばよかったのか?

それはもうこの映画には山のようにあります。

例えば、先ほども言ったように、インドの貧困の問題を軸に作ってゆくこともできたんじゃないでしょうか? 観ている限り、インドの子供の貧困はかなり深刻です。このこと一つを柱に据えていけば、サルーがどれだけ恵まれた立場にいるのか、オーストラリアとインドの経済状況など、あらゆる視点から社会問題を描けたはずです。

または「血の通わない家族」をテーマにしても良かったでしょう。

もしもこの作品を、ニコール・キッドマン演じる「養母」との絆の作品にするんだったら、全く別の作品になったのだと思います。

ましてやこの養母は、自分では子供を産む能力がありながらインドの子供を引き取っていたという素晴らしい人格の持ち主です。きっとこのテーマを中心に据えて描くだけでもっといい作品になったことは間違いないです。

もし、養母との絆を描くのであれば、当然実母との絆も同時に、非常に効果的に描けたでしょうから面白いものになったのではないでしょうか。

グーグルアースという「テクノロジー」をテーマにしても良かったかも知れません。

この作品ではグーグルアースを大きなモチーフにしている割に、テクノロジーに対しての解釈が甘いです。もっと先進的な作品になる要素はいくらでもあったと思います。

例えば、テクノロジーの進歩によって救われた家族、という描き方をするならば、やっぱりテクノロジーを持てないインドの貧困問題はそこで比較対象として描くことができたはずです。
デヴィッド・フィンチャーの「ソーシャル・ネットワーク」のように冷静な視点からの傑作になったに違いありません。

いろんなテーマを上げてみましたけど、しかし、私が最も観てみたかったテーマは、サルーの血のつながらない兄の話です。

この映画はとにかく平凡な作品でしたが、唯一他の映画とは質の違うものを感じるとしたらこの兄の存在でした。

血のつながらない兄をテーマにしたらどれだけ面白い作品になっただろうなあ、と、残念でなりません。こんな風に、「グーグルアースドラマ物語」の駒の一つとしてではなく、テーマの中心人物としてこの兄を詳細に描いてほしかった。

そうすることで、この映画は必ず、サルーの実の兄との兄弟愛の物語ももっと効果的に描けたはずです。
そう思うと残念でなりません。

何度も言いますが、いろんなテーマを描くことは別に間違いではありませんが、それは一つのテーマをしっかりと柱に据えた場合の枝葉としてのみです。

この映画の制作側のように、「グーグルアースで人探しって今っぽくてすごいから感動させられる」なんて言うチープなモチベーションで映画を作るからこんなことになるんですよ。

作りは実は「ムーンライト」に似ている

この映画は実は、アカデミー賞で作品賞を受賞した「ムーンライト」と作り自体は非常に似ています。

ムーンライトは、子ども時代から「マイノリティ」として生きて成長し、だんだん大人になり、自らのアイデンティティの元である恋人のいる町へ戻る、というストーリーです。

「ライオン」も、子ども時代に「迷子」になってしまう(マイノリティ)ところからオーストリアに移り住み、大きくなり、ルーツであるインドに戻ってゆく、という意味で非常に似ているのです。

しかしながらこの両作を観ると、いかに「ムーンライト」が優れた映画かが如実に分かります。

テーマ性がまずは違いますよね。
「ムーンライト」で描かれるのは「純愛」です。これこそが柱の「テーマ」であり、そこから枝葉のように「セクシャルマイノリティ」「人種問題」「いじめ」「友情」などのテーマが描かれます。

これこそが映画の持つべきテーマ性です。

「グーグルアースってすごいよね」なんて言う薄っぺらいサプライズはいらんのです。

ここからは個人的な話です

さて、ここからは個人的に残念に思った話です。
これは私の個人的な意見で全く客観性のない話ですので、興味がなければ読み飛ばしてくれてけっこうです。

先週、「ムーンライト」を観に行きましたが、アカデミー賞作品賞を受賞した作品だというのに劇場はガラガラでした。一方、「ライオン」はかなり埋まっていました。

どちらの作品も、公開後3日目の月曜に観に行ったのですが。

日本人はどうやら本当に「ムーンライト」には興味がないようですね。
まあ、黒人の問題もLGBTの問題も全く関係ないと思っている人が多いんでしょう。仕方ないと言えば仕方のないことですが残念です。

日本には日本人しかいませんからね。

日本には基本的に日本人しかいないのは、本当につまらなくて退屈ですね。皆同じ民族なので、みんなが同じように感じているし、それが当たり前だと思っているし、そうじゃないものを淘汰しようとしますよね。

日本人として日本の中にいるだけで日本の良さが分かるのかなあ。

私はできれば人種の坩堝で暮らしてみたいです。
その方が日本の良さだってわかる気がするけど。

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